9月29日(火)午後、民主党の政策勉強会が開催され、東京大学の社会科学研究所の丸川知雄教授から「中国経済の課題と展望について」ご講演をいただきました。
主なポイントは、以下のとおりです。
1)中国経済の短期的な課題
①中国の人口の46%が農村に住む一方、GDPに占める第1次産業の割合は10%と不均衡になっているので、5億人がこれから都市に移住してもおかしくないが、北京など大都市は都市戸籍の発行を抑え、都市の発展を意図的に遅らせている。つまり巨大な不動産需要への期待と実際の不動産需要とが釣り合っていない。
②株バブル崩壊後のゆくえは、中国政府が音頭をとって株を買い支えて株価を維持しているため、本当の適正水準がわからず、投資家は模様眺めしている。株を保有している投資家5000万人のうち時価10万元相当以上の保有者1500万人が株下落の影響を強く受けたとみられ、海外旅行や高額消費への影響が起きている。
③中国政府が公表しているGDP(国内総生産)統計への不信感、とりわけ各工業製品の生産量の停滞・落ち込みと6%の工業の成長率とのつじつまが合っていないことから、2015年1ー6月のGDP成長率は公表されている7%ではなく、5.3%と推計される。
2)中国経済の中長期的展望
①かりに2015年ー16年が5%台の成長になったとしても、中国のGDP(国内総生産)は、2027年ごろにはアメリカを抜いて世界最大になると予測される。そして今から15年後には、中国のGDPは日本の5倍以上となり、日本経済はアジアの1割程度の規模となる。(インドやASEAN10カ国にもGDPの数値を抜かれることになる)
②経済成長をもたらすのは、資本・労働・生産性の成長であるが、中国の就業者数は一人っ子政策の影響で、実は2015年つまり今年がピークとなっている。資本についても今は人々の貯蓄率が高く外国の投資も引く続き流入しているので、投資の資金源が豊富であるが、人口の高齢化にともない貯蓄率は次第に下がっていく。したがって2030年以降は、生産性の上昇が中国経済成長のカギとなってくるが、予測は難しい。伸びる要素としては、技術導入の余地が大きく、活発な研究開発投資と国家の科学技術奨励策が後ろ盾になっている点と国有企業の改革・民営化が進捗しつつある点をあげることができる。悲観的要素としては、枯渇する余剰労働力や改革の停滞・腐敗、そして生産能力の過剰をあげることができる。
3)中国の経済成長とアジア・アフリカ・ラテンアメリカ
①中国とASEANの貿易が近年 急速に拡大していて、このままの勢いが続けばASEAN域内の貿易よりも対中国貿易の方が多くなるかもしれない状況にある。2014年まで中国が大量に輸入していた鉄鉱石・石油・石炭などの値段が上昇し、中国が大量に輸出しているパソコンや携帯電話はだんだん安くなり、中国がまさに資源輸出国の経済を牽引していた。だが、中国の景気減速とともに一次産品の価格が急落し、中国への輸出依存度が高い国ほど大きな成長減速を記録している。
②これからは、中国国内での公共事業による需要回復だけではなく、途上国への直接投資・借款・援助によって外需を拡大できれば、中国から途上国への輸出拡大→中国の景気回復→途上国から中国への輸出拡大という好循環への復帰のシナリオが考えられ、AIIB(アジアインフラ投資銀行)やBRICS新開発銀行の設立もその文脈でとらえるべき。
最後に、一部の日本企業や日本人がアジアの成長のダイナミズムに背を向けているのは残念で、2030年には日本はアジアのGDPの1割程度になってしまうのに、AIIBのような仕組みにこのまま参加をしないでどうやって未来を切り開いていくのか大いに疑問と指摘され、講演が終わりました。 (報告者 田中秘書)