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第189通常国会

「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案」 及びその「修正案」

並びに「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律案」に対する討論

(2015年9月9日:参議院本会議)

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民主党・新緑風会 石橋みちひろ

民主党・新緑風会の、石橋みちひろです。

私は、会派を代表し、ただいま議題となりました「労働者派遣法一部改正案」並びに修正案、及び、「同一労働・同一賃金法案」に対し、いずれも反対の立場で討論を行います。

今回の労働者派遣法改正案は、そもそも異常な法案です。前回の改正は、たった3年前の平成24年。初めて、派遣労働者の保護を前面に打ち出して、当時野党の自民党・公明党も賛成して成立し、まだその運用は始まったばかりです。しかも、その最も重要な改定である「労働契約申し込みみなし制度」は、長い準備期間を経て、この10月1日からようやく施行されるところでした。

ところが安倍政権は、あろうことか、業界団体の規制緩和の要望に応え、昨年、法案を国会に出してきました。2度にわたって廃案になったにもかかわらず、政府は今国会に、ほぼ同じ内容の法案を、しかも施行日を9月1日に設定して出してきました。何がなんでも「みなし制度」の根幹である「期間制限違反」を無きものにしたいという決意の表れであり、そのことは、9月1日を過ぎた今、施行日をなんと9月30日に修正してきたことからも明らかです。

労政審で審議すべき政省令事項が41項目もあること、さらには準備と周知のために相当な時間が必要なことを考えれば、円滑な施行は不可能です。現場は大混乱に陥ります。それでも数の力で押し切ろうとしています。かつてここまで露骨に、労働者を救済直前に裏切って切り捨てて、違法派遣を使って利益を上げてきたブラック企業を救済する悪法があったでしょうか?

委員会質疑でも、塩崎大臣は何十回も答弁不能に陥り、審議をストップさせました。政府与党自らが修正案を出さざるをえず、39項目にも及ぶ附帯決議が採択されたことからも、本法案がいかに欠陥だらけで、廃案にすべき法案であるかは明らかであります。

問題点を上げれば切りがありませんが、以下、五点に絞り、反対の理由を申し述べます。

第一に、本法案は、派遣の期間制限を事実上、撤廃し、これまで基本原則であった常用代替防止原則を有名無実化して、派遣の自由化に道を開き、正社員から派遣への置き換え及び固定化を招くもので、断じて容認できません。

歯止めなどありません。過半数労組代表等が反対しても、聞く必要はなく、受け入れ開始時には意見聴取の必要すらないのです。そもそも、期間延長しなければ、例外業務以外の一切の派遣労働者を受け入れることが出来なくなるために、事実上、延長しないという判断は困難なのです。

つまり、事業所単位への改悪によって、期間制限は実質的に無きものとなり、企業は経営判断で好きなように正社員を派遣労働者に置き換え、3年毎に労働者を入れ替えながら永久に派遣を使い続けることが可能になってしまいます。まさにこれは、業界による、業界の利益のための法案なのです。

第二に、雇用安定化措置義務は、抜け穴だらけで実効性がなく、派遣労働者の雇用が今まで以上に安定化することは到底、期待できません。

政府は、安倍総理を先頭に、繰り返し「正社員化を実現する法案だ」と宣伝してきました。しかしこれは全くのウソです。法案には「正社員化」などどこにも書いてありません。意味の無い「直接雇用の申し入れ」が雇用安定化措置の選択肢にあるだけで、それすらやる義務はないのです。派遣元事業主は、そもそも本来業務である「新たな派遣先の機会提供」さえしていればよく、しかも、義務規定の対象者は限定的で、大半は努力規定のみ。かつ、義務規定逃れも簡単にできてしまいます。そんな穴だらけの雇用安定化措置に、何の意味があるでしょうか?

第三に、教育訓練提供義務も、キャリアアップや処遇改善を保障する規定になっておらず、かつ派遣労働者の権利として確保されていないため、実効性がありません。

条文には、ご丁寧に「派遣就業に必要な技能及び知識」を身につけることと規定されていて、何を提供するかの判断は派遣元事業主に委ねられています。派遣労働者本人の希望や選択を尊重する義務などどこにもありませんし、塩崎大臣も、「何をするかは経営者の判断」と答弁で認めてしまっているのです。派遣労働者の皆さんが、全く期待できないと訴えておられるのも当然のことです。

第四に、この法案では、派遣労働者の賃金アップも処遇改善も実現されず、不合理な労働条件格差も、職場差別も野放しのまま放置されるため、派遣への固定化だけが進んでしまいます。

なぜなら、均衡待遇への配慮のみを規定した条文は、現行法から全く変更されておらず、派遣労働者の権利を強化する改正などどこにもないからです。派遣元事業主は今、「正社員よりずっと安くて、便利で、楽です」などと宣伝広告を打って競争していますが、塩崎大臣は、そんなとんでもない広告を許さないという政治的意志さえ示さないのです。つまり、政府は最初から、派遣労働者の処遇改善も、権利や尊厳の保護も、本気で実現するつもりなどなかったことは明らかです。

第五に、本法案によって、専門26業務が一律に廃止され、これまで派遣の中で、比較的、雇用が安定し、かつ処遇も良かった専門業務の皆さんが、かえって雇用の危機に瀕してしまいます。

すでに多くの専門職の方々が、契約打ち切りの通知を受け、衝撃を受けておられます。そもそも労働者派遣制度は、専門職や、真に臨時的・一時的な業務に限って例外的に認められるべきものなのです。それを今回、専門業務という区分を撤廃してしまうことは、派遣制度のあるべき姿を根底から覆す大改悪であり、絶対に廃案にすべきです。

以上、労働者派遣法改正案原案に対する反対理由を申し上げました。なお、修正案についても、施行日を9月30日に設定した暴挙も含め、諸問題の根本的な解決にはなっていないため、反対です。

また、「同一労働・同一賃金法案」についても、衆議院での修正の結果、派遣労働者への適用に関する規定が、①均等ではなく均衡待遇でもよしとされたこと、②立法による措置が担保されなくなったこと、かつ、③1年以内ではなく3年以内の措置と大きく後退してしまったことなどから、法案の実質的な意義が失われてしまったため、反対です。

 

同志議員の皆さん、圧倒的多数の当事者の方々が、本法案に反対しています。将来を見通せない雇用の不安定さと、頑張っても報われない低賃金と、不合理な処遇格差と、全く理不尽な職場差別の中で、苦しい毎日を過ごし、それでも一生懸命に働いておられる派遣労働者の皆さんたちです。反対しているのは、決して、法案の中身を理解していないからではありません。この法案がいかに欠陥だらけで、派遣労働者の権利や地位や雇用の安定にはつながらず、これではむしろ、企業が今まで以上に、派遣労働者を雇用の調整弁として自由に使い、正規雇用を減らし、労働コストの削減で利益を出すことを可能にする法案だということを理解されているからこそ、反対しておられるのです。

今回の法案は、今の派遣労働者の皆さんの希望を奪うだけではなく、これから社会に出る若者や、企業で活躍したいと願う女性たちの正社員への希望をも奪い、一生派遣で、不安定かつ低賃金の労働に押し込み、一部企業の儲けのために彼らの将来を犠牲にしてしまう大改悪です。

それだけではありません。今後、正社員が減り、不安定かつ低賃金の派遣労働が増大すれば、個人消費は一層、減退し、貧困と格差が拡大して社会が不安定になり、貴重な人材まで失われ、少子化が加速し、地方経済はさらに疲弊していくのです。それがなぜ、分からないのでしょうか?

労働は、商品ではありません。労働者は、モノではないのです。労働者の犠牲の上に、我が国の発展などありません。派遣労働者を犠牲にした企業の成長など、あってはならないのです。「世界一、労働者が安心して働いて、安心して暮らしていける国を創る」ことこそ、私たち政治家の責任であり、私たち民主党は、派遣労働者の皆さんを含む全ての勤労者の皆さんとともに、その実現に向けて全力を尽くしていくことをここにあらためてお約束し、私の反対討論と致します。

(了)