金曜日から日曜日にかけて、あちらこちらで6本の講演をさせていただいて、支援組織の若手組合員などさまざまな対象の方々に、国政の動向や政治の重要性についてお話しをする機会をいただきました。

 

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最近の講演の中で、特に力を入れてお話しをしているのが現政権が進めている労働者保護ルールの改悪について。単に批判するのではなく、それがいかに、私たちが本来めざすべき労働政策とかけ離れ、間違った方向性のものであるか、そしてその中身が、いかに穴だらけで、労働者のためにならないか、なるべく分かりやすくお話しする努力をしています。

皆さんもご存じの通り、今通常国会では、昨年二度、廃案になった「労働者派遣法改悪案」の再提出に続いて、「労働基準法等の一部を改正する法律案」も提出されてくる可能性が高くなっています。後者については、今、労働政策審議会で最終盤の議論が行われていて、労働側はその結論案の内容に猛反発していますが、そもそも政府は最初から法案提出ありきで議論をまとめようとしてますので、結局、強引にこのままの内容で押し切ってしまうのでしょう。そうなると、これは大変なことになってきます・・・。

というのも、その「法律案要綱」の内容が・・・恐ろしい代物なのです。そう、いわゆる「ホワイトカラー・エグゼンプション」と呼ばれている制度の導入を可能にする部分ですね。要綱案そのものはこちらでご覧になれますので、ぜひダウンロードしてお読みをいただければと思いますが、ここでその恐ろしい内容の一端をご紹介しておきます。 今回、政府はこの「ホワイトカラー・エグゼンプション」に、「高度プロフェッショナル労働制」という呼称を与えました。まあ、そういう呼称にして、大多数の一般労働者に「自分には関係ない話だ」と思わせるためなんでしょうね(苦笑)。

要綱案では、「六 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)」として記載されています。 で、それがどういうものであるかについて、最初の部分にこう書いてあります:

労働基準法第四章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定は、対象労働者については適用しない

これ、大事なところです。つまり、今回の高度プロフェッショナル労働制の対象となる労働者は、労働時間規制の適用から除外されるので、残業代や深夜・休日割増も払われなくなるのですが、それだけでなく、休憩(労基法34条)や、休日(労基法35条)に関する規制からも除外されてしまうのです。 しかしそれでは「労働時間に際限がなくなって、健康を損なうどころか、過労死にまで至ってしまう」という批判をかわしたいからでしょうか、要綱では「健康管理措置」として、労働時間(健康管理時間)を把握することを使用者に求め、その上で、具体的措置として次の規定をおこうとしています:

(四)対象業務に従事する対象労働者に対し、次のいずれかに該当する措置を…使用者が講ずること。

    1. 労働者ごとに始業から二十四時間を経過するまでに厚生労働省令で定める時間以上の継続した休息時間を確保し、かつ、深夜業の回数を一箇月について厚生労働省令で定める回数以内とすること。
    2. 健康管理時間を一箇月又は三箇月についてそれぞれ厚生労働省令で定める時間を超えない範囲内とすること。
    3. 四週間を通じ四日以上かつ一年間を通じ百四日以上の休日を確保すること。

 

さて皆さん、これをご覧になってどう思われます? おっ、(イ)は勤務間インターバル(休息)規制(のような)ものだし、(ロ)は労働時間の上限規制だし、(ハ)は休日規制だから、かねてから労働側が主張していた項目が全部入っているので、まずまずの内容じゃないか!・・・と評価されるでしょうか?

いやいや、ほとんどの方は、すぐこの規定の恐ろしさにお気づきになったはず。

まず、(イ)にしても、(ロ)にしても、一体それが何時間で設定されるのか、法案審議の段階では分からないし、省令で定めるので、国会での議論すら要らないという代物であるわけです。例えば、(イ)の休息規制が、本当に実効性あるものになるのかどうか、それは、時間が8時間で設定されるのか、12時間で設定されるのかで、全然違った評価になるわけですね。

しかも、仮に(イ)が8時間なり9時間なりで設定された場合(注:なぜなら、今、国内の労使で勤務間インターバル規制を導入している場合、9時間とか8時間が中心なのです)、裏返せば、1日16時間とか15時間とか、休憩なしに勤務(労働)しても全く法的に問題ないということになってしまいます。

さらに!

これらは「いずれかの措置」を採ればいいことになっているわけで、もし事業者が(イ)を採用したとすると、(ロ)も(ハ)も縛りがなくなりますから、月あたりの労働時間制限もなければ、休日の制限すらかからなくなってしまいます。つまり、1日15時間とか16時間連続勤務して、それを極論すれば、最長で1年360日(注:今回の法案で、年次有給休暇を最低5日間は取得させる義務を使用者に課す予定ですが、それはこの労働制対象者にも適用されると説明されています)続けさせたとしても、これは全く合法だということになってしまうのです。

逆に、例えば(ハ)を選択して、4週間で4日間(つまり24日間連続勤務が合法的に可能)と、年間で計104日間の休日を与えさえすれば、1日あたりの労働時間の規制すらかからなくなる、つまり、24時間働かせても大丈夫だし、極論すれば、それを24日間続けさせても合法ということになってしまいます。

いや、これ、本当に凄くないですか? 恐ろしくないですか? 実はこれ、先週の民主党「厚生労働部門会議」で、この要綱案の内容について厚労省の担当から説明を受けた際、私が質問した部分なんです。そしたら担当から「そうです、そうなります」って認める答えが返ってきたので、一同、騒然としてしまったわけです。

皆さん、今回、このホワイトカラー・エグゼンプション(労働時間規制の適用除外)の対象になるのは、役員でも、監理・監督職でもない、一般の労働者です。いくら導入当初は業種限定、年収要件あり(1,075万円以上程度を想定)で、対象はごく限られるとは言え、対象が少ないからいいってもんじゃありません。しかも、対象は将来的に拡大可能だし、恐らく拡大されるであろうことは、労働者派遣法の歴史や、今回拡大されようとしている裁量労働制の経過から見ても容易に想像できます。

結局は、残業代や深夜・休日割増を払うことなしに、ひたすらに成果を出すために働かせることができる労働者を生み出したいという、一部のとんでもない経営者の願望に、今の政府が応えようとしているだけなのではないでしょうか。だって、「労働時間でなく、成果で労働者を評価する」なんてことは現行法の枠内でいくらでも可能ですし、すでに多くの企業がそうしています。かつ、今回の要綱案には、どこにも、対象労働者には成果で賃金を支払いなさいなどとは書いてありません。全くのまやかし、ごまかしなわけです。

ということで、少し長くなりましたが、多くの方々と問題を共有するために書かせていただきました。いずれにせよ、こんなとんでもないもの、何としても止めていかなくてはいけないと思います。今後、要綱がまとまれば、それに基づいて法案が策定され、3月中には法案提出になると思われますが、ぜひ皆さん、怒って下さい、そして、力を貸して下さい!