先日、民主党のマニフェストをご紹介しました。すでに与野党各党がマニフェストを発表していますので、ぜひこの機会に、各党の政策を比較し、今後の進むべき道について考えてみる材料にしていただければと思います。

特に、与党自民党のマニフェストは、これまで2年間に及ぶ政権党としてのマニフェストですから、安倍総理の言う「この道」がどんな道だったのか、今どの辺を歩いて居るのか、今後どこへ行くのか、その手がかりを掴む上で一度、お読みいただくことをお勧めします。

その自民党マニフェストですが、やはり、「この道しかありません」と大きく掲げて、今後も安倍政治を続けて行くことを宣言しています。そしてそこには、「今、アベノミクスの成果が、日本を確実に再生させています」と大きく掲げられており、「雇用や賃金の改善は続いており、これまでの経済政策に間違いはありません」「雇用や賃金の増加を伴う経済の好循環の更なる拡大を目指します」と記述されています。

成果をアピールする指標でも、「就業者数は約100万人増加」「女性の就業者数が80万人増加」「有効求人倍率は22年ぶりの高水準」「賃上げ率は過去15年で最高」「企業の倒産件数は24年ぶりの低水準」という数字が踊っています。

これらの数字、決して嘘ではありませんし、歓迎すべきトレンドであることは間違いないと思います。ただ、その数字の中身についてもう少し正確に把握をしておかないと、間違った判断をしてしまうことになります。以下、3点だけコメントしておきます。

(1)「就業者数は約100万人増加」「女性の就業者数が80万人増加」

  • 役員を除く雇用者数で、2012年10ー12月期から2014年7ー9月期の変化は、正社員が3330万人→3305万人(25万人減)、非正社員が1843万人→1952万人(110万人増)です。つまり、増えたのは非正規雇用ですね。しかもその多くは、高齢者の非正規労働者(110万人のうち約70万人)でした。
  • 安倍首相は、「それでも雇用が増えたんだからいいじゃないか!」とか言って怒り出しそうですが、「雇用の質が大事」と何度も国会答弁で認めているのですから、「100万人増えた!」とだけ宣伝するのは違うのではないかと思います。非正規雇用労働者にはまったくと言っていいほど賃上げの恩恵は行き渡っていないことも付言しておきましょう。
  • さらに心配されるのは、世帯主の実質賃金の低下によって、家計が苦しくなり、専業主婦・主夫がパートに出なければいけなくなっている家庭が増加した可能性があることです。

(2)「有効求人倍率は22年ぶりの高水準」

  • 確かに有効求人倍率は全ての都道府県で改善しています。しかし大切なのは、求人の中身であり、実際に持続的な就労に結びついたかどうかです。まず、正社員有効求人倍率はあまり上昇しておらず、平均で0.67にとどまっています。
  • また、建設労働者など、一部の分野が平均を大きく押し上げていることも考慮しておかなくてはいけません。アベノミクスの第二の矢、大胆な財政出動がまたぞろ伝統的なハコモノ公共工事にばらまかれた結果、資格や技能の必要な建設労働者などの人材不足が顕在化したわけですね。残念ながら、多くの求人があっても、それがすぐに充足されるわけではありませんから、求人倍率の高さだけを競っても意味ないわけです。
  • 加えて、今、多くの都市では、医療・介護分野が一番の雇用創出分野(特に若年層)になっていて、この分野の求人倍率も高くなっています。が、この分野も残念ながら、なかなか求人が充足されませんし、されても持続しません。労働条件が悪いのがその原因の一つです。これまた、求人倍率だけ見ても有効な対策を検討できません。

(3)「賃上げ率は過去15年で最高」

  • 2.07%という数字は、連合が7月に公表した今年の春闘の結果(経営側から受けた回答の最終集計)の数字を引用しています。しかし、物価の上昇も過去15年のうちで最高になっている中で、ある程度の賃上げがあるのはある意味当然で、本来、物価上昇分+αの賃上げがなければ、賃金(生活)の改善とは言えないわけですね。
  • 労働者の実質賃金は、15ヶ月連続でマイナスを続けています。つまり、生活は悪化しているわけです。その事実をきちんと見ないと、正しい対策は打てないのではないでしょうか。

 

他にも色々と指摘したい点がありますが、この辺にしておきます。ぜひ皆さんも、マニフェストを手にとって、あれこれ疑問を投げかけてみて下さい!