本日(3月27日)行われた参議院厚生労働委員会で、民主党会派を代表し、議題となった「雇用保険法の一部を改正する法律案」の質疑に立ちました。
今、常任委員会の所属は文教科学委員会ですので、今日は委員を差し替わっての登板。昨年の通常国会以来、久し振りの厚生労働委員会での質問となりました。
なぜ私が今日、厚生労働委員会の質問に立ったかというと、3月6日(木)の参議院予算委員会で私が質問に立った時に、雇用保険事業の一つである「労働移動支援助成金」のあり方について質問したのですが、答弁に立った田村厚生労働大臣がすれ違いの答弁を行った(つまり、質問の意味を取り違えて答弁した)のです。そのために、今日はあらためてこの「労働移動支援助成金」についてその内容を質すため、質問の機会をいただいたのでした。
質疑の詳細は、参議院インターネット審議中継の録画でご覧をいただきたいと思いますが、今日の質疑を通じて、来年度予算でなんと300億円もの巨額予算が付けられたこの「労働移動支援助成金」が、運用次第で、ちまたで懸念されているように「リストラ支援助成金」となり得るものであることを明らかに出来たと思います。
簡単に言いますと、この助成金は、労働者のリストラを決めた企業(送り出し企業)が、対象となった労働者の再訓練と再就職の支援を民間人材ビジネス会社に委託した場合、まず委託費用を支払った際に10万円の奨励金が支払われ、再就職が成功した際に委託費用の半額(または中小企業の場合は3分の2)から最初に支払った10万円を引いた額が成功報酬として支払われるというものです。
さらに、その対象となった労働者を雇用した企業(受け手側企業)が、その労働者を期限の定めのない労働者として雇用し、さらにOFF-JT/OJTなどの訓練を実施した場合に、その訓練費用などに助成金を支払います。
これが、安倍政権の言う「成熟産業から成長産業への失業なき労働移動」の目玉の事業なわけです。
さて、パッと聞くとなかなか良さそうな事業に聞こえるかも知れませんが、しかし中身はまったくいい加減なものと言うことが今日の質疑を通じて明らかになりました。
送り出し企業が受け取る最初の10万円は、再就職が成功するしないには関係なく、受け取ることができます。さらに、成功報酬は、再就職先が非正規雇用であっても受け取ることができるのです(雇用保険の被保険者になることが唯一の要件)。また、再雇用されても、その雇用が継続するかどうかは問われません。極端に言えば、有期で31日以上雇用されて雇い止めにあっても、成功報酬は支払われるのです。
派遣労働も対象になりますので、派遣事業者に登録して31日以上働いて、それで終わりになってもOKということになってしまいます。
これで、1企業、最高で年間500人まで、一人当たり上限60万円まで奨励金が支払われます。今回から大企業も対象になりましたので、例えば500人リストラした大企業が、人材ビジネス企業に総額6億円の委託を行い、非正規でも派遣でもいいから再就職を実現させれば、3億円の奨励金を受け取ることが可能ということです。
また、受け手側企業への奨励金は、労働者を期限の定めのない労働者として雇用することが条件になっていますので、送り出し企業への奨励金よりは条件が厳しくなっているように見えます。しかしこちらも、派遣労働でもO.K.なので、とりあえず常用型の派遣労働者として雇用して、何がしかの訓練を提供すればそれで奨励金を受け取ることが出来てしまうのです。
問題は、これがなぜ、「成長産業への移動支援」になるのかということです。
送り出し側は、再就職先が非正規でも構わないし、受け手側も、派遣労働でも構わないわけです。何と言っても、厚生労働省はこれまで、この助成金事業の対象となった企業や労働者が、いったいどの産業のどの分野の企業・労働者で、どの分野にどのような雇用形態で再就職が出来たのか、全く把握していなかったというのです。
つまり、政策効果がまったく検証されていない事業を「成長産業への失業なき労働移動」の目玉政策と位置づけて、300億円もの巨額の予算を付けてしまったわけですね。結果、喜ぶのは奨励金を貰ってリストラができる送り出し企業であり、巨額の委託事業を引き受けることができる人材ビジネス会社だけだったという結果になってしまうのではないか、これが私たちの懸念なのです。
今日の質疑で、最後に田村厚生労働大臣は、今までまったく把握していなかった対象企業や労働者の産業分野や異動先の雇用形態などの情報を把握し、その結果を公表して政策効果の検証を行うことを約束しました。今日の問題提起が、今後の事業の運用に一定の歯止めを掛けて、間違っても「リストラ支援助成金」にならないよう、私たちもきっちりチェックをかけて行きたいと思います。