昨、1月7日(火)の午後、民主党の政策研究会で、慶應義塾大学の樋口美雄教授から「労働改革とあるべき労働市場の姿」というテーマで講演をいただきました。以下、備忘録的に重要なポイントを何点か書き留めつつ、皆さんにもご紹介しておきたいと思います。
ちなみに、樋口教授は現在、労働政策審議会(労政審)の会長を務めるとともに、内閣官房雇用戦略対話にも構成員として参加されています。この日の講演は、あくまで樋口教授個人の見解として行われたものですが、労政審や雇用戦略対話の今後の方向性を占う上でも大変参考になるお話しでした。
主なポイントは、4点。
1点目は、労働市場における流動性の確保について。
時代の変化とともに、人が余る産業、人が足りない産業がどうしても生じてくるので、雇用の流動化は避けられない。しかし、今、出口の議論、つまりいかにして成熟産業(人が余る産業)から人を出しやすくするかという議論ばかりが行われていることには疑問を持っている。むしろ、非正規雇用問題をはじめとする労働市場の歪みの是正や、正社員の無限定な働き方をいかに是正して、ワークライフバランスを確保するかという問題、雇用保障と会社の人事権のバランスの問題、さらには技術や経験の認証・可搬性の問題や、高い転職コストをどう下げていくかという問題などを優先的に解決していく必要がある、とのこと。
2点目は、非正規雇用の問題について。
1997年が日本の労働市場の転換点で、以降、正規雇用が減少し、非正規雇用、特に常用雇用の非正規雇用が増大してきた。問題は、非正規雇用労働者に対する非合理的な差別や労働条件格差であり、不本意な非正規労働が長期化する傾向にあることである。欧州では、非正規雇用が正規雇用へのステップになることが多いが、日本ではそうなっておらず、一旦、非正規雇用に入るとそのまま永続してしまう。持続的な職業・能力開発やキャリア形成、さらには技術・経験の認証が必要で、ジョブカードを有効に活用することなど、制度面での整備が早急に求められる。
3点目は、最低賃金の問題について。
日本は、市場平均賃金に比べて最低賃金が低すぎる。よく、最賃を上げるとかえって雇用が失われるという議論があるが、これまでの研究成果によると、最賃の引き上げで雇用が失われるという事実はない。引き上げ出来るところは積極的に引き上げを図っていくべき。
4点目は、ルールの徹底について。
せっかく労働・雇用のルール(労働者保護法制)をつくっても、それを遵守させる体制が弱すぎる。例えば、ハローワークの役割を増やしているのに、人員は増えないため、現場で人手不足が深刻化している(注:労働基準監督官、受給調整官なども同じです)。作ったルールをきちんと守らせる、国の施策をしっかりと実施する体制を強化していく必要がある。
以上ですが、私が日頃から主張している論点と被る部分がほとんどで、何度も頷きながら講演を楽しませていただきました。
現政権の下で今、労働・雇用ルールの規制緩和が進められようとしていますが、上記のような問題を解決しないままに流動性・柔軟性だけ高めてしまえば、不安定かつ低賃金の雇用が一層増えるだけ。何の解決にもならないどころか、経済・社会を一層、不安定なものにしてしまう、ということだと思います。この点をしっかりと踏まえながら、あるべき労働市場の姿、とるべき労働・雇用政策について提起し、現政権の規制緩和一辺倒の議論には真っ向から対峙していきます。